3GPPって何?
移動通信システムの規格化を行う標準化団体です。
3G(W-CDMA) ⇒ 4G(LTE) ⇒ 5G(NR)とそれぞれ規格を策定してきており、
大きくSA , RAN , CTの3つのグループとその配下のWG(ワーキンググループ)から構成されます。
ざっくりいうと、SAが次期の移動通信で実現したい絵を書いて、RANとCTがその実現に向けて無線領域やコア・端末領域で深堀り検討していくようなイメージです。
各グループはさらに複数のWGから構成されていて、RANに関して言うと、いわゆる物理層を検討するRAN1や、L2,L3プロトコルを検討するRAN2がアツい印象です。
3GPPは聞いたことあるけど、どうやって見ればいいの?
①規格化(標準化)されたものを見たい
→TS(Technical Specification)と呼ばれる仕様書を見てみる
https://www.3gpp.org/specifications/specification-numbering
5G全体を記載した有名どころは下記あたりでしょうか。
TS 23.501 |
System architecture for the 5G System (5GS) |
TS 23.502 |
Procedures for the 5G System (5GS) |
ちなみ、3GPPで見られるTSは基本的にdocx形式です。PDFが良い場合は、
"ETSI TS 23.501 "あたりでググると、ETSIによってダウンストリーム(=簡単に言うと、その地域の標準化団体で策定し直したもの。日本だとARIBとかTTC)された版ですが
閲覧可能です。(※基本的に内容は同じですが、微妙に3GPPの最新のものと版数は異なる場合もあるので、超上級者は3GPP版を見たほうが良いかと)
②今まさに規格化に向け議論されているホットな話題が知りたい
→
a.4半期毎に開催される、Plenary会合の寄書を見てみる
b.更に詳しく知りたければ、概ね隔月開催の各WG会合の寄書を見てみる
例えば、2020/9開催のRAN plenary の寄書は下記にて誰でも閲覧可能です。
https://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/TSG_RAN/TSGR_89e/Docs
(SAやCTも同様に↑のサイトからすべての会合の寄書を閲覧可能です)
…見てみたけど、寄書の数が多すぎて何を見ればよいかわからない!!!
と思うので、上記の2020/9開催RAN#89 plenary会合を通して、
私の眺め方をご紹介してきます。
Step1: Plenary会合の寄書一覧をDLする
Plenary会合は上記でも記載したように、4半期ごとに開催されます。
内容としては、概ね隔月で行われている、配下WGでの検討状況報告及び、
新たな検討項目や検討完了した項目の承認を得るための会合になります。
したがって、議論状況・結果のサマリを見るだけであればこちらを
見るだけで十分かと思います。
寄書が保存されているフォルダに、下記の寄書一覧エクセルがありますので、まずはこちらを見ていきます。
●RAN
https://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/TSG_RAN/TSGR_89e/Docs/TDoc_List_Meeting_RAN%2389-e.xlsx
●SA
https://www.3gpp.org/ftp/tsg_sa/TSG_SA/TSGs_89E_Electronic/Docs/TDoc_List_Meeting_SA%2389-e.xlsx
Step2:Status Reportで概要を把握する
上記の寄書一覧エクセルで寄書名 "Status"や "report"でフィルタしてみてください。
Status reportがいくつか見つかると思います。これらは発信者と宛先によって
内容の粒度が異なります。RANを例に取ると、大体以下なイメージです。
①RANからSAやCT宛のレポート
今回は、SAの寄書一覧エクセルに"①RANからSA宛のレポート"を見つけました(下記)
#逆に、RANの寄書一覧エクセルに、SAからRAN宛のレポートがあったりなかったりする場合もあり、内容は割愛しますが、上記のSP-200890の中身としては、
・Release17 の今後の議論スケジュール
・Release16 の仕様修正状況
といった全体スケジュールや、情報共有がメインで記載されています。
②RANの各WG毎のレポート
つづいて、もう少し詳しい内容を見るために、"②RANの各WG毎のレポート"を見ていきます。
これまた内容は割愛しますが、先程のSA宛のレポートとは異なり、各検討項目の
進捗状況が細かに記載されています。このレポートで、各WGでどんな項目を現在検討しているのか、といった項目一覧を読み取ることができます。
RAN2のStatus Reportから個人的にまとめた項目一覧です
(内容の細かいところの誤りはご勘弁を)
SI/WI |
検討項目名 |
概要 |
SI |
NR Sidelink Relay |
|
SI |
RAN Slicing |
スライシングのRANでのサポートに向けた、セル選択やRACH制御の検討 |
SI |
NR Positioning enhancement |
産業用途への適用を見据えた測位精度向上手法の検討 |
SI |
Red Cap (Reduced Capability) |
端末の複雑さ(アンテナ数、利用周波数等)を削減した際のカバレッジ影響等検討 |
WI |
NR Multicast |
V2Xと公共安全を対象に含めたMulticast/Broadcast検討 |
WI |
NR NTN |
衛星やHAPSなど非地上系ネットワーク実現に向けた検討 |
WI |
MR DCCA enhancement |
複数無線を同時利用してCAする際の機能拡張検討 |
WI |
NR IIOT URLLC |
IIoT適用(5G-TSN統合)に向けた、さらなる低遅延・高信頼化仕様検討 |
WI |
Small Data Enhancement |
小規模データ通信に特化した仕様拡張検討 |
WI |
UE power saving |
UEの省電力化に向けた検討 |
③各検討項目ごとのレポート
いよいよ、各検討項目の議論の中身をみていきます。一例として、
RAN Slicing について見ていきます。
同じく、RANの寄書一覧エクセルでStatus reportを見ていくと、
RP-201613 Status report for study on enhancement of RAN slicing for NR
がRAN slicingに関するStatus reportっぽいのでこちらを見ていきます。
内容としては、ざっくり下記の様な内容が記載されています。
- 検討状況の進捗:25%
- 現在までの合意事項
- 検討シナリオ
・スライス毎に異なる周波数を用いる場合
・同じ周波数で複数のスライスに対応する場合
-
- 今後の検討スコープ
・スライスに基づいたセル選択、RACH手順
・スライスに基づいて、どのようにアクセス規制を実施するか
上記時点(2020/9)では、まだこの項目がSI (=Study Item。仕様書(TS)検討の前の段階)かつ議論も序盤ということで、今後の検討スコープをどうする?が中心に議論されています。
2021年10月時点では、もう少し実装に向けた仕様検討も進んでいるので、
次回以降にご紹介できればと思います。
まとめ
・仕様を見たいだけであれば、TSを眺めると良い
・ホットな話題を知りたいのであれば、寄書一覧からStatus Reportを順に読むと分かりやすい
今後について
こちらの記事を加筆・修正しつつ、RAN slicingの現状やIIoT (Industrial IoT)に関しても記事を執筆予定です。