今回は、5Gで注目されている産業分野(製造・輸送・電力・物流業界など。界隈だとVertical Domainと呼んだりもする)への5G利活用について、3GPPでの検討状況をご紹介したいと思います。
IIoT(Industrial Internet of Things)とは
産業分野に特化したIoTとして、Industrialの頭文字Iがくっついて、IIoTと
呼ばれています。1つ目のIが誤記に思われることがしばしばありますが、
Iが一個多い場合は、産業分野に特化した方か~と思いましょう。
産業分野に特化すると何が違うの?
モノの製造工場を例に考えてみると、下記の点がより他分野より強く求められます。
- 信頼性:ネットワークが切れて製造ラインが止まってもらっては困る
- 低遅延:制御が遅れた結果、思うような動作をしないと困る
- 時刻同期:色んな機械がタイミングを合わせて動いてくれないと困る
今の工場にある機械はどうやって動いているの?
全部が全部ではありませんが、上で述べた信頼性・低遅延・時刻同期といった要件を満たすために、イーサネットを拡張した産業用ネットワークを用いることが多いです。
例えば、CC-LINK、PROFINET、EtherCATあたりが有名です。
様々な製品がありますが、基本的にはPLC(Programmable Logic Contoroller)と呼ばれる装置を制御したい機械に取り付け、ネットワークとPLCを介して、機械を制御します。
単にネットワークを介して機械を制御するだけであれば、通常のイーサネットでも良さそうですが、冒頭でも述べたように産業分野は、信頼性・低遅延・時刻同期に求められる要求が高く、私達が通常、家や会社で使っているようなイーサネットではそれらを満たすことができません。
どうやって要件をみたしているの?
産業分野向けにリアルタイム通信(とその他)を実現するため、
TSN (Time Sensitive Network) が IEEEにて標準規格化されています。
規格 |
主な内容 |
IEEE 802.1AS |
時刻同期 |
IEEE 802.1Qbv |
スケジューリング |
割込処理 |
先述のCC-LINKやPROFINETも、近年はTSNへ対応しています。
(正確には、CC-LINK IE TSNやProfinet over TSNと呼ばれる)
で、5GとIIoT(TSN)に何の関係が?
基本的に、従来の産業用ネットワークは有線が前提でした。
それは、無線では信頼性・低遅延・時刻同期といった要求を到底満たすことができなかったからです。
一方、工場内のライン変更の都度、大掛かりなケーブル敷設をやりなおしたり、運用中にレイアウトを気軽に変更できないことから、これらのネットワークを無線化したい!といった要望は過去から多く存在していました。
そんな中、5Gで掲げられたURLCC(低遅延・高信頼)のケースにおける目標値は、
下記のように、かなり有線に近い値が語られています。
遅延: the target for user plane latency should be 0.5ms for UL, and 0.5ms for DL
信頼性: reliability requirement for one transmission of a packet is 1×10^(-5) for 32 bytes with a user plane latency of 1ms.
参照:TR38.913
ということで、上記が本当に実現できるのであれば、産業用ネットワークの大半を無線に置き換えられるかもしれない!といった機運が高まり、じゃあ本気でやろうと思ったら何が課題なの? が現在、3GPPや5G-ACIAといった標準化団体で議論されています。
5GとTSNの統合
IIoTの実現に向け、目下議論されている一つに、5GとTSNの統合があります。
イメージとしては、下記エリクソンのWebサイトにある、
figure.3 5GS integrated with TSN providing end-to-end deterministic connectivity
がわかりやすいと思います。
主要部分だけ抜き出すと下記のような感じでしょうか。
制御対象機器(Machine)と、それを操作するControllerの間にTSN Bridgeと呼ばれる、いわゆるNWスイッチに該当する装置が複数存在しています。
5GとTSNが統合された世界では、5Gの区間が、まるでひとつのTSN Bridgeであるかのように振る舞うことが期待されています。
その実現のため、新たにTT(TSN Translator)という要素の導入が検討されています。
TT (TSN Translator)とは
簡単に言うと、5Gのお作法と、TSNのお作法を調整して間をいい感じに
取り持ってくれる頼れる存在です。
UEとUPFといった、5GとTSNの境界に設置されて、具体的には下記の働きを期待されています。
いずれも、信頼性・低遅延・時刻同期といったTSNに求められる要素を、5Gシステムでも実現するための機能となっています。
IIoT標準化
3GPPでは
Release16でようやくTTの基本的な技術要素が議論され始めました。
TR38.825 Study on NR industrial Internet of Things (IoT)にSI(StudyItem)としての
議論結果がまとめられています。
Release17では、URLCCとセットにされて、下記の長いネーミングで議論が継続されています。
NR_IIOT_URLLC_enh (Enhanced Industrial Internet of Things (IoT) and ultra-reliable and low latency communication (URLLC) support for NR)
5G-ACIAでは
産業分野向けの5G利活用検討を主眼に置いた団体として、5G-ACIAというのもあります。SiemensやBoschといった産業機器大手ベンダと、各国のMNOが参加しており、
産業分野における5Gのユースケースや、それらに求められる要件を定義しています。
こちらは寄書ではなく、様々なホワイトペーパーを公開しています。
以前は3GPPにおいて、ユースケースや要件の策定まで実施していたようですが
昨今は、
①5G-ACIAでユースケースや要件定義
②3GPPにインプットして、仕様へ落とし込み
といった流れで、連携しているように見えます。
まとめ
・IIoTは産業分野向けに特化したIoTのこと
・特に5G×TSN統合によって、従来の産業用イーサネットの無線化がホット
・TT (TSN Translator) の実装が実現のカギ(と同時にURLLCも)