omusubi techblog

This website is my technical memo (Mobile/Wireless)

産業分野向け5Gのお話 (IIoT編)

今回は、5Gで注目されている産業分野(製造・輸送・電力・物流業界など。界隈だとVertical Domainと呼んだりもする)への5G利活用について、3GPPでの検討状況をご紹介したいと思います。

 

IIoT(Industrial Internet of Things)とは

産業分野に特化したIoTとして、Industrialの頭文字Iがくっついて、IIoTと

呼ばれています。1つ目のIが誤記に思われることがしばしばありますが、

Iが一個多い場合は、産業分野に特化した方か~と思いましょう。

 

産業分野に特化すると何が違うの?

モノの製造工場を例に考えてみると、下記の点がより他分野より強く求められます。

  • 信頼性:ネットワークが切れて製造ラインが止まってもらっては困る
  • 低遅延:制御が遅れた結果、思うような動作をしないと困る
  • 時刻同期:色んな機械がタイミングを合わせて動いてくれないと困る

f:id:omusubi5g:20211129135435p:plain

製造工場でよく見る製造機械の例

今の工場にある機械はどうやって動いているの?

 全部が全部ではありませんが、上で述べた信頼性・低遅延・時刻同期といった要件を満たすために、イーサネットを拡張した産業用ネットワークを用いることが多いです。

例えば、CC-LINK、PROFINET、EtherCATあたりが有名です。

 様々な製品がありますが、基本的にはPLC(Programmable Logic Contoroller)と呼ばれる装置を制御したい機械に取り付け、ネットワークとPLCを介して、機械を制御します。

 単にネットワークを介して機械を制御するだけであれば、通常のイーサネットでも良さそうですが、冒頭でも述べたように産業分野は、信頼性・低遅延・時刻同期に求められる要求が高く、私達が通常、家や会社で使っているようなイーサネットではそれらを満たすことができません。

どうやって要件をみたしているの?

産業分野向けにリアルタイム通信(とその他)を実現するため、

TSN (Time Sensitive Network) IEEEにて標準規格化されています。

規格

主な内容

IEEE 802.1AS

時刻同期

IEEE 802.1Qbv

スケジューリング

IEEE 802.1Qbu
IEEE 802.3br

割込処理

先述のCC-LINKやPROFINETも、近年はTSNへ対応しています。

(正確には、CC-LINK IE TSNやProfinet over TSNと呼ばれる)

で、5GとIIoT(TSN)に何の関係が?

 基本的に、従来の産業用ネットワークは有線が前提でした。

 それは、無線では信頼性・低遅延・時刻同期といった要求を到底満たすことができなかったからです。

 一方、工場内のライン変更の都度、大掛かりなケーブル敷設をやりなおしたり、運用中にレイアウトを気軽に変更できないことから、これらのネットワークを無線化したい!といった要望は過去から多く存在していました。

 そんな中、5Gで掲げられたURLCC(低遅延・高信頼)のケースにおける目標値は、

下記のように、かなり有線に近い値が語られています。

遅延: the target  for user plane latency  should  be 0.5ms  for UL, and 0.5ms  for DL
信頼性: reliability  requirement for  one transmission  of  a packet is 1×10^(-5)  for 32 bytes  with  a user plane latency  of  1ms. 

参照:TR38.913 

 ということで、上記が本当に実現できるのであれば、産業用ネットワークの大半を無線に置き換えられるかもしれない!といった機運が高まり、じゃあ本気でやろうと思ったら何が課題なの? が現在、3GPPや5G-ACIAといった標準化団体で議論されています。

 

5GとTSNの統合

IIoTの実現に向け、目下議論されている一つに、5GとTSNの統合があります。

イメージとしては、下記エリクソンのWebサイトにある、

https://www.ericsson.com/en/reports-and-papers/ericsson-technology-review/articles/5g-tsn-integration-for-industrial-automation

figure.3 5GS integrated with TSN providing end-to-end deterministic connectivity

がわかりやすいと思います。

主要部分だけ抜き出すと下記のような感じでしょうか。

 

 

f:id:omusubi5g:20211129225846p:plain

TSNと5Gの統合

 制御対象機器(Machine)と、それを操作するControllerの間にTSN Bridgeと呼ばれる、いわゆるNWスイッチに該当する装置が複数存在しています。

5GとTSNが統合された世界では、5Gの区間が、まるでひとつのTSN Bridgeであるかのように振る舞うことが期待されています。

その実現のため、新たにTT(TSN Translator)という要素の導入が検討されています。

 

TT (TSN Translator)とは

簡単に言うと、5Gのお作法と、TSNのお作法を調整して間をいい感じに

取り持ってくれる頼れる存在です。

UEとUPFといった、5GとTSNの境界に設置されて、具体的には下記の働きを期待されています。

  • 無線区間の遅延を考慮した時刻同期
  • QoSに基づいたスケジューリング
  • PDCP複製
  • イーサネットヘッダ圧縮

いずれも、信頼性・低遅延・時刻同期といったTSNに求められる要素を、5Gシステムでも実現するための機能となっています。

IIoT標準化

3GPPでは

Release16でようやくTTの基本的な技術要素が議論され始めました。

TR38.825 Study on NR industrial Internet of Things (IoT)にSI(StudyItem)としての

議論結果がまとめられています。

Release17では、URLCCとセットにされて、下記の長いネーミングで議論が継続されています。

NR_IIOT_URLLC_enh (Enhanced Industrial Internet of Things (IoT) and ultra-reliable and low latency communication (URLLC) support for NR)

5G-ACIAでは

産業分野向けの5G利活用検討を主眼に置いた団体として、5G-ACIAというのもあります。SiemensBoschといった産業機器大手ベンダと、各国のMNOが参加しており、

産業分野における5Gのユースケースや、それらに求められる要件を定義しています。

こちらは寄書ではなく、様々なホワイトペーパーを公開しています。

 

以前は3GPPにおいて、ユースケースや要件の策定まで実施していたようですが
昨今は、

①5G-ACIAでユースケースや要件定義

3GPPにインプットして、仕様へ落とし込み

といった流れで、連携しているように見えます。

 

まとめ

・IIoTは産業分野向けに特化したIoTのこと

・特に5G×TSN統合によって、従来の産業用イーサネットの無線化がホット

・TT (TSN Translator) の実装が実現のカギ(と同時にURLLCも)