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Private 5G動向 ~2023春~

この記事では、今をときめくローカル5G、プライベート5G、NPN、PNI-NPNといった

専用網的な意味合いが強いノンパブリックなネットワークについて、標準化動向や市場動向をもとに、個人的に整理していきます。

2023/05/09追記:

イギリスの戴冠式での中継放送のためにPrivate5Gが活用されたようです。

Using a private 5G network to support coverage of the King's Coronation - BBC R&D

 

 

Private 5G とLocal 5G

まず、Private 5GとLocal 5Gの日本と海外の捉え方の違いを見ていきます。

Local5Gについては、5GMF(第5世代モバイル推進フォーラム)のWebサイトやその他様々な事業者により紹介記事が上がっているので、そちらを参照ください。

「ローカル5G早わかり」(資料紹介) – 第5世代モバイル推進フォーラム

Private 5GとLocal 5Gの捉え方

日本国内では、ソフトバンクが当初より、プライベート5Gとは、"ソフトバンクの周波数を活用したお客さま専用のプライベートな5Gネットワークのこと"としていました。

ローカル5Gとプライベート5Gの違いとは? | 法人向け | ソフトバンク

 

そのせいか、国内他社のプライベート5Gとローカル5Gの比較説明を見ても、大抵が上記のように、”プライベート5Gとは、キャリアの周波数を用いたプライベートネットワーク”とされています。

プライベート5Gとは?ローカル5Gとの違いやメリットとは?|パナソニックEWネットワークス株式会社|Panasonic

5Gのサービス「ローカル5G」と「プライベート5G」どんな違いがある?

ローカル5Gの必要性。仕組みや特徴、プライベート5Gとの違いは? | ELECOM GROUP BUSINESS SOLUTION WEB

 

これに対して、海外、特にアメリカでは、Citizens Broadband Radio Service (CBRS) を用いた事例が多いようです。CBRSは既存免許人である政府(海軍レーダー)等が使用している3.5GHz帯(3.55-3.7GHz)を商業利用と共用可能な帯域として新たに配分したもので、企業等はこれをプライベートLTE/5G網の構築に利用することができます

CBRSは、Tier1⇒2⇒3の順に、使われていなければ利用可能

米国の全周波数帯5G戦略の一角担うCBRS、クアルコムが力こぶ | 日経クロステック(xTECH)

 

特に、免許不要かつ無料で利用可能なGeneral Authorized Accessでの利用が企業向けに用いられています。

有名なところでは、AWSAWS Private5GをCBRSを用いて提供しています。

Private 5G Mobile Networks – AWS Private 5G – Amazon Web Services

 

一方で、CBRS以外にもFirstNetと呼ばれる公共機関(警察・消防・救急)向けの専用網もアメリカには存在しています。

4G/5Gを「官民で相互運用」、米FirstNetが示す可能性|BUSINESS NETWORK

 

FirstNetの構成概要
[ 2/3 ] エリクソンモビリティレポートで読み解く5Gの現状(2.2億契約)と今後の進展 | 情報通信(ICT) | スマートグリッドフォーラムより

こちらは、既存のAT&Tの公衆網を共用しつつ、FirstNet向けの専用周波数とコアを用いることで、幅広いエリアかつ優先通信を可能としています。

 

ここまでをまとめると、下記のようなイメージです。

  • 日本のプライベート5G ⇒ MNOの商用網を用いた専用網
  • 日本のローカル5G ⇒ 専用周波数を用いて、MNO以外が構築運用する専用網
  • アメリカのプライベート5G ⇒ 基本はCBRSを用いてMNO以外が構築運用する専用網であり、WiFiのようにアンライセンス帯での利用が基本の考えにある。
    ただし、FirstNetのようにMNOの商用網と専用周波数を併用した専用網も存在している (が、こちらはPrivate5Gと呼ばれることは少ない)

日本のローカル5GもFirstNetのような併用型になれば、コスト・カバーエリア・使い勝手が向上して流行りそうな気がしますが、電波法や電気通信事業法等の問題で中々簡単には行かない気もします。ただ、公共安全用途であればその辺りもクリアできそうな気はしますが、それでもハードルは高そうです。

 

その他、よく言われるPrivate5GとPublic 5G(MNOによる公衆5G)、WiFiとの違いといった類の話は下記記事が分かりやすいです。(以下抜粋+一部補足)

What is private 5G?

□Private 5GとPublic 5Gの違いは?

  • 公衆5Gは接続するデバイスの数だけ、月額/年額のコストが増大化するため、大規模なユースケースほどPrivate 5Gの方がコストメリットがある
  • 組織がRANを完全に社内で保有・運用可能であるため、QoS制御の強化やセキュリティー・データプライバシーの観点での運用が容易になる

□Private 5GとWiFiの違いは?

  • Private 5GのAP(基地局)の方がWiFiよりも約5~10倍近いパワーで送信可能なため、同じエリアをカバーするために必要なAP(基地局)数が少なくて済む
  • 端末のモビリティに関して、WiFiローミングに比べ、基地局間のハンドオーバーの方がデータ損失が少ない
  • アンライセンス帯のWiFiは、CBRSよりも外部干渉を受けやすい
  • Private 5GはSIMを用いた高セキュリティ性を担保できる

 

NPN (Non Public Network) 概要

3GPP上ではPrivate 5Gのような用語は存在せず、ほぼ同義の概念として
NPN (Non Public Network)がRel-16で規定されています。

NPNには大きく2つの形態が存在し、特にPNI-NPNは共用する部分によって様々な構成パターンが検討されています。

  • SNPN (Standalone NPN) ⇒ 独立した専用網。日本のローカル5Gイメージに近い
  • PNI-NPN (Public Network Integrated Non Public Network) ⇒ MNOの公衆網を利用した専用網。日本のプライベート5Gや米国FirstNetのイメージに近い

SNPNとPNI-NPNの構成パターン例

https://www.sharetechnote.com/html/5G/5G_PrivateNetwork.html より

PNI-NPNについて、上図の例だと下記のような分け方をしています。

  • [B] 基地局⇒共有   , 周波数、トランスポート、コア ⇒別
  • [C] 基地局,トランスポート, コアのC-plane ⇒ 共有 , 周波数,UPF(U-plane)⇒ 別
  • [D] 全て共有し、DNN(UPFのN6の先)のみ別

共用という意味では、下記のインフラシェアリングの文脈にも通じるところがあるようにも感じられます。

インフラシェアリングの整理

https://www.tepco.co.jp/pg/company/press-information/information/2022/pdf/220204a.pdf

将来の5G基地局の在り方に向けた意見交換会公開用最終取り纏め より

以下、SNPNとPNI-NPNの動作について詳しく見ていきます。

 

SNPN (Standalone NPN)

SNPNのイメージは完全独立
What are non-public networks in 3GPP parlance? より

SNPNは、現在日本国内で推進されているローカル5Gの形態に近いイメージです。

要するに、MNOとは関係なく、完全に独立した5Gシステム(RAN~TN~5GC)を個別に構築し、運用するものです。

但し、日本のローカル5Gのほとんどは、SNPN対応というわけではなく、単にMNOで利用されている製品を小規模にパッケージングしたものが大多数と思われます。

というのも、SNPN対応セルでは、PLMNに加えてNID(Network ID)という識別子を報知情報として用いることで、該当のSNPN対応端末のみが接続できるようになっています。

SNPN対応端末はSNPNアクセスモードと呼ばれる、通常のPLMN選択とは異なるモードが存在し、接続するSNPNセルを選択することが可能になるといった専用網ならでは機能が存在します。

 

PNI-NPN (Public Network Integrated NPN)

PNI-NPNのイメージはMNOと設備共用

What are non-public networks in 3GPP parlance? より

PNI-NPNは、現在日本国内でのプライベート5GやアメリカのFirstNetの形態に近いイメージです。要するに、MNOが運用する5Gシステムの一部を共用しつつ、ある企業や組織のための専用網を構築し、運用するものです。

但し、SNPN同様に、こちらもPNI-NPN対応セルでは、PLMNに加えてCAG(Closed Access Group)-IDという識別子を報知情報として用いることで、該当のPNI-NPN対応端末のみが接続できるようになっています。(ちなみに、CAG-ID非対応端末からは、PNI-NPNセルはBarred状態に見え接続対象外となる)また、CAG-IDを報知していない、通常の公衆網への接続も許容可能となっています。

ちなみに、CAGと似た概念として、CSG (Closed Subscriber Group)がLTEの頃から存在しています。こちらは、家庭用フェムトセルに対し、その家庭のユーザー端末のみが接続できるような用途を目的に検討されたようですが、対応基地局/コア/端末の少なさから普及には至らなかったようです。

https://www.sharetechnote.com/html/Handbook_LTE_CSG_OAM.html

CAGの前世的なCSGもあったらしい
https://certification.iptpc.com/seminar2019_02.pdf より

その他、PNI-NPNでは専用網の論理的/物理的な分割のため、ネットワークスライシング技術の適用も同時に言われることが多いです。
(スライシングの話は下記で色々と妄想しています)

ネットワークスライシングとQoS (3GPP TS23.501 5.7 QoS model/5.15 Network Slicing他) - omusubi techblog

 

ここまでをまとめると、下記となります。

  • SNPNはローカル5Gっぽいけど、標準上はPLMN+NIDで識別するのがSNPN
  • PNI-NPNはPLMN+CAG-IDで識別する。通常の公衆網の接続も可能
  • いずれも端末が各IDに対応してないと機能しない

つぎに、各ReleaseでのNPN機能拡張についてみていきます。

 

Rel-16~18 での機能拡張

これまでの変遷

 

まず、各ReleaseのTS23.501目次からざっくりとNPNの機能拡張の変遷を見ていきます。

TS23.501目次から読み取くNPNの変遷

赤枠が前のReleaseから増えた部分です。PNI-NPNはほとんど増えてませんね。

CAG-IDを規定したし、あとは各MNO/ベンダーにお任せ!な感じなのでしょうか…

(S-NSSAIにも似た雰囲気を感じますが)


さて、Rel-18はまだ途中と思われるので後述するとして、一番大きな機能拡張はRel-17の認証周りのようです。私のざっくり理解は下記です。

  • SNPN以外の外部の企業体・認証機関(CH:Credential Holder)による認証メカニズムを規定(企業がAAAサーバを配備し、EAPサーバとして機能する)
  • ON(Onboarding)-SNPNとSO(Subscription Owner)-SNPNを新たに規定し、ON-SNPNで認証情報をネットワーク内のPVS(ProVisioning Server)から取得したのち、UEはSO-SNPNへアクセス可能となる≒このメカニズムではUDMが登場しないので、SIMが不要となる?

詳しくはドコモ先生が解説頂いていますので、下記を参照ください。

https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol30_3/vol30_3_004jp.pdf

 

Rel-18どんな感じ

NPN関連のWIとしては、eNPN_Ph2(Enhanced support of Non-Public Networks)@SA2が最新のようです。

eNPN_Ph2

内容としては、TR 23.700-08 Study on enhanced support of Non-Public Networks;Phase 2 (Release 18)の仕様化が検討されています。

とりあえずKey Issues

TR内では、SNPN間の接続、non-3GPPアクセスのサポート、ホスティングNPNなる新たなNPNが登場するなど、これまたてんこ盛りのため、また別途ご紹介できればと思います。