メリークリスマス!
この記事は 3GPP TS38.300(V17.6.0)を読んでいく Advent Calendar 2023
の最終日の記事として執筆したものです。
その他の記事はQiitaのアドベントカレンダーページからどうぞ!
3GPP TS38.300(V17.6.0)を読んでいくのカレンダー | Advent Calendar 2023 - Qiita
はじめに
5Gシステムの中では、様々な識別子が登場します。
有名なのは、加入者識別子であるIMSI (International Mobile Subscriber Identity) でしょうか。SIMカードに紐づくアレです。
ただし、厳密には5GではIMSIではなく、SUPI(SUbscription Permanent Identifier)と呼ばれたりもします。その他、SUPIが暗号化されたSUCIであったり、5G-GUTIと呼ばれる一時的な加入者識別子なんかもあったりします。
お分かりいただけたでしょうか、加入者識別子だけでもこんなに色々と存在しているのです…。
今回はこのような識別子だらけの中で、TS38.300で述べられている、RANにまつわる識別子の一部を紹介していきます。
RANにまつわる識別子ってどんなの?
今回はRANにまつわる識別子、ということでRACH手順(端末が基地局と通信を開始する)の中で登場する識別子を中心に見ていきます。
RANにおいては、○○-RNTI(Radio Network Temporary Identifier)というような識別子が大量に存在します。標準上は下記が挙げられます。
また、これらはいわゆるPHYやMACといった物理層に近いレイヤー(L1/L2)で使われる識別子であり、RRCやNGAPのような上位レイヤではまた別の識別子が登場します。
- RA-RNTI: Random Access RNTI
- TC-RNTI : Temporary Cell RNTI
- C-RNTI : Cell RNTI
- I-RNTI : System Information RNTI
- P-RNTI : Paging RNTI
- MCS-C-RNTI : Modulcation Coding Scheme Cell RNTI
- CS-RNTI : Configured Scheduling RNTI
- TPC-PUCCH-RNTI :Transmit Power Control-PUCCH – RNTI
- TPC-PUSCH-RNTI :Transmit Power Control-PUSCH – RNTI
- TPC-SRS-RNTI : Transmit Power Control-Sounding Reference Symbols – RNTI
- INT-RNTI : Interruption RNTI
- SFI-RNTI : Slot Format Indication RNTI
- SP-CSI-RNTI : Semi-Persistent CSI RNTI
今回は、特にRACH手順の中で重要な赤字の3つについて扱っていきます。
ちなみに、各RNTIの値の範囲や、論理チャネルとトランスポートチャネルにおいてどこで登場するか、は下記にまとめられています。
端末から基地局への接続要求~接続完了を例に見ていく
では実際に、どこでどの識別子が登場するのかをRACH手順を例に見ていきます。
ちなみ、LTEに関しては下記記事でRACH手順及び各識別子がどこで登場するか、わかりやすく解説されているのでおすすめです。
IIJmio meeting 25 スマートフォンはなぜ「つながらない」のか | PPT
下記Callflow図をもとに、各RNTIを見ていきます。
①Msg1:Preamble (プリアンブルの決定≒RA-RNTI)[UE→gNB]
RACH手順の最初に、UE側でPRACHのプリアンブルを決定しますが、その際に併せてRA-RNTIという識別子がプリアンブルの内容によって決まります。具体的には、下記式により、gNB側でRA-RNTIが導出されます。
②DCI1_0 [gNB→UE]
Preambleの応答であるRAR (RandomAcccesResponse)をPDSCHで送信し、UE側でそれを受信するための情報であるDCIを、①で導出したRA-RNTIでスクランブル化(符号系列を乗算してランダム化する)して送信します。
③Msg2:RAR (RandomAcccesResponse)[gNB→UE]
RARにはMAC PDUが含まれ、その中で新たにTC-RNTIがgNBから払い出されます。
ちなみに、これは以前みたAmarisoftのシミュレータトライアル版でも見て取れます。
TC-RNTIは一時的な識別子ですが、すでにC-RNTIが割り当てられている場合(Connected→Idle→Connectedと通信再開する場合など)を除き、接続確立後にC-RNTIへ昇格します。
また、RARでは、TC-RNTIと併せてUL grant情報も含まれており、これをもとにUEは次に送るMsg3のタイミング(周波数領域や時間領域)を通知されます。
④Msg3:RRC Setup request [UE→gNB]
Msg3ではようやく上位レイヤのRRCメッセージが登場します。
最初のRRC Setup requestでは、RRCメッセージの中で新たにUE-identityという識別子が用いられます。これは39bitの値で、下記のようにランダムな値か、5G-S-TMSIの1部分(48bitのうちの39bit)というどちらかの値が用いられます。
ここでいきなり5G-S-TMSIが現れましたが、これは48bitの識別子であり、5G-GUTIの短縮版として用いられています。主にAMFで生成される識別子なので、RAN内というよりはRAN~コア間でのやりとりに用いられると覚えておくと良さそうです。
脱線しましたが、RRCではUE-identityという識別子が登場することを見ました。
⑤DCI1_0 [gNB→UE]
続いて、Msg4をUEが受信するためのDCI1_0をPDCCHで送信します。
②ではRA-RNTIでスクランブル化していましたが、この時点ではC-RNTIでスクランブル化しています(③で登場したTC-RNTIがそのままC-RNTIに昇格した)
⑥Msg4:RRC Setup [gNB→UE]
UEからのRRC Setup requestに対するgNBの応答メッセージです。
以降の個々のUE向けDCIはC-RNTIでスクランブル化されます。
⑦DCI0_0 [gNB→UE]
続いて、Msg5をUEが送信するためのDCI0_0をPDCCHで送信します。ここでのスクランブル化も⑤と同じC-RNTIを用います。
⑧Msg5:RRC Setup Complete [UE→gNB]
UE~gNB間だけの接続の最後のメッセージです。これより先は、gNB~AMF間のコアとの通信が行われます。
ということで、UE~gNB間の接続開始~完了までの間に出てきたRNTIをまとめます。
これらはセル固有の一時的な識別子であるため、接続する基地局が変われば必然的に変わります。
これに対し、AMFとのやり取り等に使われる識別子は、セルごとではなく、あるAMFの管轄するトラッキングエリア内であったり、Regsitration後の一定期間の間であったりと、有効エリアや期間が異なります。
まとめ
今回は、RANにおける一時的な識別子であるRNTIについて、特に端末のRACH手順にか関わるものを見ていきました。途中出てきた5G-GUTIなど、gNB~コア間の識別子やコア内の識別子についても、ぜひ今後まとめられればと思います。